
この記事でわかること
- カシノナガキクイムシが木へ入りナラ菌を運ぶ
- ナラ菌の影響で木の通水機能が損なわれ夏に急速に枯れる
- 被害量は材積で示され、木の本数や被害面積とは意味が違う
夏の山で、ナラの木だけが赤茶色に変わっていることがあります。秋の紅葉に似ていますが、季節外れに葉が変色して枯れる場合は、ナラ枯れの可能性があります。
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシという小さな甲虫と、甲虫が運ぶナラ菌が関係する森林病害です。甲虫が木の中へ入り、ナラ菌が樹体内で広がることで水の通り道が機能しにくくなり、木が急速にしおれて枯れるという流れで起こります。
林野庁の2026年9月30日更新資料によると、2025年度の全国のナラ枯れ被害量は前年度比113%の約21.2万立方メートルでした。ただし、この数字は木材の体積である「材積」です。被害木の本数や森林全体の面積と同じ意味ではありません。
ナラ枯れを起こす2つの主役
ナラ枯れを理解するには、甲虫と菌を分けて考える必要があります。
| 主役 | 役割 |
|---|---|
| カシノナガキクイムシ | ナラ類などの幹へ穿入し、ナラ菌を運ぶ甲虫 |
| ナラ菌 | 木の内部で増え、樹体の通水機能に影響する菌 |
カシノナガキクイムシは体長5mm程度の小さな昆虫です。成虫が木の幹へ穴を開けて入るとき、体に付着したナラ菌が木の中へ持ち込まれます。甲虫が木を削ることだけが原因ではなく、菌との組み合わせが病害を進めます。
木の中で何が起きるのか
木は根から吸い上げた水を、幹の中にある通り道を使って枝や葉へ運びます。葉で作った養分を別の場所へ運ぶ流れもあります。ナラ枯れでは、ナラ菌に感染した細胞が死ぬと道管が詰まり、水の通りが妨げられます。
通水機能が低下すると、根から吸い上げた水が葉まで届きにくくなります。葉は水分を保てなくなり、しおれや変色が進みます。外から見ると、夏なのに葉が赤茶色になり、紅葉したように見えます。
この変化が急に見えるのは、木の内部で進んでいた変化が、葉の状態として一度に現れるためです。枯れ始めてから原因が発生したのではなく、甲虫の穿入と菌の広がりが先に進んでいます。
カシノナガキクイムシはどのように広がるのか
林野庁によると、成虫は翌年の6~8月ごろに孔道から脱出し、そのときナラ菌も一緒に運び出されます。脱出した成虫は健全なナラに穿入・産卵し、そこで次の世代が育ちます。
また、被害はどの木にも同じように起こるわけではありません。林野庁は、高齢化した森林の大径木で被害が多く見られることを説明しています。
ナラ枯れが一度確認された地域で、翌年以降に別の木へ被害が移ることがあるのは、甲虫の生活史と木の中での繁殖が関係するためです。単純に「菌が風で広がる病気」と考えると、甲虫が媒介する点を見落とします。
被害量の数字は何を表すのか
森林の被害ニュースには、「被害量」「被害面積」「被害本数」など異なる数字が登場します。ナラ枯れで林野庁が公表する全国被害量は、主に材積で整理されます。
| 数字 | 意味 |
|---|---|
| 材積 | 被害木の木材としての体積 |
| 本数 | 被害を受けた木の数 |
| 面積 | 被害が確認された森林の広がり |
| 前年度比 | 同じ指標で前年と比べた増減 |
2025年度の「前年度比113%」は、材積で比較した数字です。これをそのまま「木の本数が113%になった」「森林面積が113%に広がった」と読み替えることはできません。数字の単位を確認してから、被害の広がりを判断する必要があります。
夏に枯れた木はすべてナラ枯れなのか
夏に葉が赤くなったナラの木は、すべてナラ枯れである。
この断定はできません。樹木の変色には、乾燥、根の傷み、別の病害虫、気象条件など複数の原因が考えられます。ナラ枯れでは、幹の穿入孔や木くずと糞が混ざったフラスなどが手がかりになりますが、外見だけで確定するものではありません。
逆に、外から大きな変化が見えない段階でも、木の内部でカシナガの穿入が始まっていることがあります。被害の確認や対策は、樹木の所有者や森林管理者、自治体などが公式資料に基づいて行う領域です。記事では読者へ伐採や薬剤処理を指示しません。
まとめ
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシがナラ菌を木の内部へ運び、菌の影響で通水機能が損なわれる森林病害です。夏に急に葉が赤茶色になるのは、木の中で進んでいた水の流れの異常が、葉の変色として現れるためです。
2025年度の全国被害量は約21.2万立方メートルで、前年度比113%でした。ただし、材積は木の本数や被害面積とは異なる指標です。ナラ枯れをニュースで読むときは、甲虫、菌、木の内部の通水、統計の単位を分けて見ると、現象を正確に理解できます。
よくある質問
Q. ナラ枯れの原因はカシノナガキクイムシですか、ナラ菌ですか?
A. 両者が関係します。カシノナガキクイムシが木へ穿入する際にナラ菌を運び、菌の影響が木の枯死につながります。
Q. ナラ枯れはナラの木だけに起こりますか?
A. ナラ類のほか、シイ・カシ類などでも被害が確認されています。樹種や地域によって被害の程度は異なります。
Q. 夏に赤くなった木は必ずナラ枯れですか?
A. いいえ。変色だけでは原因を確定できません。穿入孔やフラスなどの情報と、専門機関による確認が必要です。
Q. 被害量21.2万立方メートルは木の本数ですか?
A. いいえ。木材の体積を示す材積です。本数や被害面積とは別の指標です。
参考資料
- 林野庁「ナラ枯れ被害」
- 林野庁「森林保全の動向」
- 東北森林管理局「カシノナガキクイムシ」
- 関東森林管理局「ナラ枯れ被害から森林を守る」:カシノナガキクイムシは体長5mm程。
- 農林水産省「森林病害虫被害量の概要」
