
この記事でわかること
- リチウムイオン電池の熱暴走は、内部短絡のほか、外部短絡・過充電・外部からの熱など複数のきっかけで始まる
- 高温・衝撃・劣化は、電池の異常を起こすきっかけになり得るが、事故の原因は一つとは限らない
- NITEの1,860件はリチウムイオン電池搭載製品全体の事故件数で、モバイルバッテリー単独の数や発火する確率ではない
モバイルバッテリーが「突然」発火したように見えるとき、電池の内部では温度が上がり続ける状態が起きていると考えられています。リチウムイオン電池の中で発熱が発熱を呼ぶ「熱暴走」に入ると、外から止めにくくなります。
事故のきっかけは一つとは限りません。NITE(製品評価技術基盤機構)は、温度上昇のきっかけとして、内部短絡、外部短絡、外部からの熱、過充電、過電流、過放電などを挙げています。高温の場所に置かれたこと、強い衝撃、劣化、製造上の不具合などが関わる事例があり、NITEの事故情報には、原因が特定されていないものも含まれます。
リチウムイオン電池は何を蓄えているのか
リチウムイオン電池は、正極と負極の間でリチウムイオンと電子をやりとりすることで充電と放電を行います。正極板と負極板はセパレーターという薄い部材で隔てられ、内部には可燃性の電解液が入っています。
この構造によって小さな容積に多くのエネルギーを蓄えられます。一方で、正極板と負極板が何らかの理由で電気的につながる「内部ショート」が起きると、蓄えたエネルギーが意図しない経路で放出される可能性があります。
熱暴走とは何か
NITEは、熱暴走を、JIS C 8715-2の定義を引いて「リチウムイオン電池セルにおいて、発熱が更なる発熱を招くという正のフィードバックによって、温度の制御ができなくなる現象、またはその状態」と説明しています。内部の物質の熱分解反応が急激に起こり、電池セルの温度上昇が止まらなくなり、可燃性ガスを噴出する弁の作動、破裂、発火に至ることがあります。
温度上昇のきっかけ
NITEの資料は、熱暴走に至る温度上昇のきっかけとして、次のものを挙げています。
- 内部ショート
- 外部ショート
- 外部からの熱(電池セル以外からの発火による加熱を含む)
- 過充電
- 過電流
- 過放電
- これらが重なる複合要因
内部ショートでは、短絡した場所に電流が集中し、ジュール熱が発生して電池内部が高温になります。NITEの事例では、製造不良による内部短絡(異物の混入、巻きずれ)、湿気の浸入と劣化による内部短絡、膨張したバッテリーに外力が加わったことによる内部短絡などが紹介されています。
高温・衝撃・劣化との関係
NITEは、リチウムイオン電池搭載製品の火災事故を防ぐポイントとして、高温下に放置するなどして熱を与えないこと、強い衝撃を与えないことを挙げています。
NITEの事例には、高温の自動車内に放置したモバイルバッテリーの事故(詳細な原因の特定には至らず、電池セルが異常発熱して発火したものと推定)や、膨張したモバイルバッテリーを押し込んで元に戻そうとした際に電池セルが内部ショートした事故があります。
ただし、これらは「必ず事故になる条件」ではありません。NITEの事故情報にも、原因が調査中のものや、リチウムイオン電池に起因した可能性があると推定されるものが含まれます。個々の事故を一つの原因に決めつけず、熱暴走に至るきっかけの一つとして理解するのが適切です。
事故の統計をどう読むか
NITEによると、2020年から2024年までの5年間にNITEに通知された「リチウムイオン電池搭載製品」の事故は1,860件で、約85%(1,587件)が火災事故に発展しました。事故の発生件数は春から夏にかけて気温の上昇とともに増加する傾向にあり、6月から8月にかけてピークを迎えます。NITEは、高温環境で電池内部の温度が上昇し、異常発熱や発火のリスクが高まるためと考えられると述べています。
この件数は次の点に注意が必要です。
- 対象は、モバイルバッテリー、スマートフォン、電動アシスト自転車、充電式電動工具など、リチウムイオン電池を動力源にする製品全体です。製品別では、モバイルバッテリーの事故が最も多く、2024年は2022年比で2倍以上に増えたとNITEは説明しています
- NITEに通知された事故の件数であり、市場にある製品から発火する確率を表す数字ではありません
- 調査中の事故や、原因は特定されていないがリチウムイオン電池に起因した可能性があると推定される事故も含まれます
まとめ
モバイルバッテリーの発火には、電池が熱暴走に入ることが関わります。熱暴走のきっかけは、内部短絡のほか、外部短絡、外部からの熱、過充電など複数あり、高温・衝撃・劣化は、その引き金になり得る条件です。ただし、事故の原因を一つに限定することはできません。NITEの統計はリチウムイオン電池搭載製品全体の通知件数で、発火の確率を示すものではありません。
よくある質問
Q. モバイルバッテリーは夏になると必ず発火しますか? A. 必ず発火するわけではありません。NITEの事故件数は夏に多い傾向にありますが、通知された件数であり、確率ではありません。
Q. 熱暴走とは何ですか? A. 電池内部の発熱によって反応が進み、その反応がさらに熱を生む状態です。温度の制御ができなくなり、発火に至ることがあります。
Q. 同じ仕組みはスマートフォンにもありますか? A. NITEは、リチウムイオン電池を使うモバイルバッテリー、スマートフォン、電動アシスト自転車などの製品を「リチウムイオン電池搭載製品」としてまとめて扱い、電池セルの熱暴走の仕組みを共通のものとして説明しています。このほか、NITEは、製品の回路や保護基板に起因する事故も別の資料で取り上げています。
参考資料・出典
- NITE「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご用心 ~「リチウムイオン電池搭載製品」の火災事故を防ぐ3つのポイント~」(令和7年6月26日):2020〜2024年の事故件数(1,860件・1,587件)、月別の傾向、事例。発表資料のPDF(10頁)まで確認。
- NITE「リチウムイオン電池搭載製品の発火事故事例」:熱暴走の定義(JIS C 8715-2)、温度上昇のきっかけ、セルの構造。冒頭の熱暴走の説明を確認(事例の頁は未精読)。
- NITE「リチウムイオンバッテリー搭載製品における回路構成に関する考察」:熱暴走の温度上昇のきっかけ、充放電制御・保護基板に起因する事故。冒頭〜熱暴走の節を確認(基板事故例の頁は未精読)。
