
この記事でわかること
- 2011年の小規模MRI研究は左海馬などの灰白質濃度の増加を報告した
- 2022年の無作為化比較試験では脳構造の変化が再現されなかった
- 脳構造・心理面・安全性は別の問い。実践時間や効果を一律に保証しない
「8週間で脳が変わる」と言えるのか
瞑想を続けると脳が変わる、という説明を見かけます。その根拠の一つが、2011年に発表された8週間のマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)のMRI研究です。しかし、同じ8週間のプログラムを調べた後の研究では、脳構造の変化が再現されませんでした。
一つの研究の結果、後の再検証、日常の実践への案内を分けると、期待できることと、まだ言い切れないことが見えてきます。
2011年の研究が報告した範囲
Hölzelらは、健康で瞑想経験のない成人16人のMRIを、8週間のMBSRの前後で比較しました。待機リストの対照群は17人です。
事前に注目した部位の解析では、左の海馬の灰白質濃度の増加が報告されています。全脳の解析では後帯状皮質、側頭頭頂接合部、小脳でも増加が報告されました。
ここで扱ったのはMRIから推定した灰白質濃度です。「神経細胞が何個増えた」「記憶力がこの分だけ上がった」といった結果へ置き換えることはできません。また、前頭前野の活性化や扁桃体の縮小を、この研究の主な結果としてまとめることもできません。
人数が少ない研究であり、MBSRというプログラムへの参加と脳構造の指標を調べたものです。自宅で毎日10分座ることに、同じ結果をそのまま当てはめることはできません。
2022年の研究では再現されなかった
Kralらの2022年の研究は、二つの無作為化比較試験のデータをまとめました。MBSR群に加え、マインドフルネスを含まない健康増進プログラムの群と、訓練を受けない対照群を設けています。
研究機関のUW–Madisonの報告によると、8週間の介入後、MBSRとどちらの対照群の間にも、脳構造の変化に有意な差は認められませんでした。
| 研究 | 対象・比較 | 報告されたこと |
|---|---|---|
| Hölzelら(2011) | MBSR参加者16人と待機群17人 | 左海馬などの灰白質濃度の増加 |
| Kralら(2022) | 二つの無作為化比較試験。MBSR・健康増進・待機群を比較 | 脳構造の変化を対照群との差として再現できなかった |
後の研究が再現しなかったからといって、瞑想のあらゆる効果がないと証明されたわけではありません。調べたのは、特定の期間・対象・プログラムと、MRIで測る脳構造です。長期間の実践や、心理面の変化、脳の活動については、それぞれの研究を分けて読む必要があります。
MBSRは「毎日何分座る」と同じではない
MBSRは瞑想だけでなく、身体への気づきやヨガなどを組み合わせるプログラムです。NCCIHは、瞑想・マインドフルネスを教えるプログラムに、話し合いや生活への応用を支える活動が含まれる場合もあると説明しています。
したがって、8週間という長さだけをまねても、研究と同じ条件にはなりません。「5分から始めて20分に伸ばせば脳が変わる」「8週間続ければ効果が出る」といった量や期間の保証を、この研究から作ることはできません。
マインドフルネスで注意を向けるとは
NCCIHは、呼吸・音・マントラなどに注意を保つ瞑想と、判断を加えず現在の瞬間に注意を向けるマインドフルネスを説明しています。
呼吸を対象とする練習なら、呼吸の感覚に注意を向け、注意が別のところへ移ったことに気づいたら戻す、という説明ができます。「一切何も考えない状態に成功する」ことを、MRIの変化の条件とする資料ではありません。
これは練習の考え方の説明です。時間・姿勢・呼吸法を一律に指定する治療手順ではなく、この記事から診断や治療の方法を決めることはできません。
効果と安全性も別に確認する
NCCIHは、研究には予備的なものや厳密さが不十分なものが多く、結果が楽観的に解釈されている可能性を説明しています。脳の一部の変化だけを取り上げて「誰にでも安全で効果的」とは言えません。
同資料が紹介する2020年のレビューは83研究・6,703人を扱い、約8%に否定的な影響があったとまとめています。よく報告されたものは不安と抑うつです。この割合はレビュー対象の研究についての値で、すべての実践者の発生率とは限りません。
通常の医療を瞑想で置き換えたり、受診を遅らせたりしないこともNCCIHの注意点です。症状がある場合は医療機関への相談を優先してください。
MRI研究を読むときの確認点
- 何を測ったか:脳構造、脳の活動、気分、生活上の困りごとは別の指標。
- 何と比べたか:待機群だけか、別の活動を行う群もあるか。
- どの条件か:対象人数、経験、期間、プログラムの内容。
- 再現されたか:最初の肯定的な結果だけでなく、後の比較研究もあるか。
2011年の報告は研究の一つとして紹介できますが、脳が必ず変わるという結論にはできません。「変化の報告があること」と「日常の実践で同じ変化が確実に起きること」を分けて読むのが、今回の比較から得られる判断材料です。
参考資料・出典
- Hölzel et al. (2011), Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density:対象人数、8週間、灰白質濃度と部位を論文要旨で照合。
- Kral et al. (2022), Absence of structural brain changes from mindfulness-based stress reduction: Two combined randomized controlled trials:再検証の研究。研究別の詳細手法・補足資料は未照合。
- UW–Madisonの研究報告(2022):三群の構成、プログラム、対照群との差が認められなかった点を照合。
- NCCIH, Meditation and Mindfulness: Effectiveness and Safety:実践の説明、研究の限界、有害事象レビューと医療を置き換えない注意。
