
この記事でわかること
- 名前は1920年代のホーソン工場の実験に由来するが、「見られると生産性が上がる」という通説は、照明実験のデータの再分析で疑問が出ている
- 研究に参加していること自体が行動を変える可能性は報告されているが、条件・仕組み・大きさはよく分かっていない
- 日常や職場での使い方は、この記事の考え方の例であり、効果を検証したものではない
「見られていると変わる」という説
誰かに見られていると、普段より丁寧に仕事をしたり、ジムで少し多めに動いてしまったりした経験はないでしょうか。こうした現象を説明するときに「ホーソン効果(Hawthorne Effect)」という言葉が使われることがあります。
ただし、この名前のもとになった実験の「通説」は、近年の再分析で疑問が出ています。この記事では、通説と再検証の両方を整理します。
ホーソン工場の実験
ホーソン効果は、シカゴ郊外のウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で1920年代に行われた一連の研究に由来します。LevittとListによると、工場の照明の明るさと生産性の関係を調べる「照明実験」は1924年から1927年に行われ、その後も研究が続けられました。
通説では、照明をどう変えても(暗くしても)生産性が上がったのは、従業員が「観察されている」と意識したからだ、と説明されてきました。
しかし、LevittとListは、照明実験の記録のデータが見つかったとして、これを分析し直しました。その結果、これまで語られてきた劇的なデータのパターンの記述は、実際のデータとは異なる(原文は「entirely fictional」)と結論づけています。この実験では、照明の変更はすべて月曜日に行われました。月曜日は産出が他の平日より低く、その後上がるという週の周期があり、照明を変更しなかった月曜日にも同じパターンが見られたため、データの主なパターンは照明の変更ではなく週内の周期によるものだとしています。一方で、わずかな形で効果が残っている可能性は否定していません(要旨に「より微妙な現れ方の兆候がある」とあります)。
また、McCambridgeら(2014年)の系統的レビューは、研究に参加していることが対象の行動を変える影響は存在するものの、その効果が現れる条件、仕組み、大きさについては、確実にはほとんど分かっていないと結論づけています。
通説と再検証
「ホーソン実験は、見られると生産性が上がることを証明した」と説明されることがあります。しかし、上で見たように、通説の根拠となった照明実験のデータの分析には、疑問が示されています。
| 通説 | 近年の再分析・レビュー |
|---|---|
| 照明などを変えても、観察されているという意識で生産性が上がった | 通説で語られてきた劇的なパターンは確認されず、主なパターンは週内の周期によるものだとされた(LevittとList) |
| 研究に参加すること自体が行動を変える | 影響は存在するが、条件・仕組み・大きさはほとんど分かっていない(McCambridgeら、2014年) |
「見られていると行動が変わる」可能性は否定されていませんが、確実な効果として使うには根拠が足りない、と考えるのが慎重です。
日常で考えるときの注意
以下は、この記事の考え方であり、効果を検証した研究に基づくものではありません。
- 「見られているからやる」だけでなく、見られていない場面でも続けられる動機づけが必要になる場合があります。
- 過剰な監視は、本人の負担や不信感につながる可能性があります。「見張る」のではなく「関心を持っている」と伝わる関わり方を考えるのも一つの工夫です。
まとめ
- ホーソン効果の名前は、1920年代のホーソン工場の研究に由来する
- 「見られると生産性が上がる」という通説は、照明実験のデータの再分析で疑問が出ている(LevittとList)
- 研究への参加が行動を変える可能性はあるが、条件や大きさは確実にはわかっていない(McCambridgeら、2014年)
- 職場や日常で使うときは、確立した方法ではなく、一つの考え方として扱う
「見られていると変わる」という実感は多くの人にありますが、それをホーソン効果で説明できるかは、慎重に考える必要があります。
よくある質問
Q. ホーソン効果は「監視カメラを置けば良い」という意味ですか? A. いいえ。この記事で読んだ資料には、監視カメラの効果を示したものはありません。
Q. 一人で勉強するときにも使えますか? A. 試すことはできます。学習記録を共有する、自習室を使う、目標を宣言するなど、「外部の目」を意識する工夫が例として考えられますが、効果は人によって異なり、この記事では検証していません。
参考資料・出典
- Levitt, S. D., List, J. A. (2011)「Was There Really a Hawthorne Effect at the Hawthorne Plant? An Analysis of the Original Illumination Experiments」American Economic Journal: Applied Economics, 3(1), 224–238:照明実験のデータの再分析。刊行版は要旨を確認。内容(1924〜1927年の実験、月曜日の変更など)は、NBERのワーキングペーパー版(WP15016、2009年5月)の要旨・序論・実験概要の節で確認した。
- McCambridge, J., Witton, J., Elbourne, D. R. (2014)「Systematic review of the Hawthorne effect: New concepts are needed to study research participation effects」Journal of Clinical Epidemiology:研究参加が行動に及ぼす影響の系統的レビュー。要旨・導入・結論を確認(全19研究を対象)。
