
この記事でわかること
- 同じ漢字を見続けると、全体としてのまとまりの認知が低下する可能性があると説明される
- 実験では、約25秒の注視後に、同じ形や同じ構造の漢字の認知が遅れた
- 目の疲れとは異なる現象だと説明されている
同じ漢字を長い間見続けていると、漢字としてのまとまりがなくなって各部分がバラバラに見えたり、どんな漢字だったかわからなくなったりした経験のある人は少なくない、と日本心理学会の解説は述べています。これがゲシュタルト崩壊と呼ばれる現象です。
初めて体験すると驚きますが、日本心理学会の解説では、健常な人にも持続的な注視で起こりうる現象とされています。
ゲシュタルト崩壊とは
ゲシュタルト崩壊とは、同じ漢字を見続けることで、漢字としての全体的なまとまりの認知が弱まり、各部分がバラバラに知覚される現象のことです。
「ゲシュタルト(Gestalt)」はドイツ語で「形」「全体」を意味する言葉です。日本心理学会の解説によると、この用語は、図形を見ているとそのまま注視し続けるうちに全体的な印象が消えてしまう失認症の症例を1947年に報告したファウストが、「Gestaltzerfall」(ゲシュタルト崩壊)と呼んだことに由来します。健常な人でも、持続的に注視すると全体形態の認知が減衰する可能性があるとされ、その一例が漢字の「ゲシュタルト崩壊現象」です。
なぜ起きるのか
「魚」のような漢字は、ふつう一つ一つの線を意識せず、まとまりとして読み取ります。
ところが、同じ字を見つめ続けると、全体としてのまとまりが感じにくくなることがあります。日本心理学会の解説(二瀬由理、2009年)は、原因を目の疲れなどではなく、部分を統合して全体の形を把握する高次のパターン認知の過程が、持続的な注視で低下するためではないかと説明しています。
二瀬由理・行場次朗(1996年)の実験では、順応用の漢字を25秒間注視した後に、テスト用の漢字の認知がどれだけ遅れるかを調べました。テスト用の漢字が順応用の漢字と同じ大きさのとき、同じ形の漢字(および同じ構造で部品が異なる漢字)で、50ミリ秒を超える遅れが見られました。ただし、これは認知の遅れを測定した実験で、見え方が「奇妙な記号」になる理由までを示したものではありません。
起きやすい状況
日本心理学会の解説は、健常な人にも、持続的な注視で同様の全体認知の低下が起こりうるとしています。資料で確認できた条件は次のとおりです。
- ひとつの漢字を長く注視し続けるとき(実験では約25秒)
- 注視した字と、同じ形や同じ構造の字を見るとき(実験では、一部が同じだけで構造が異なる字や、読みだけが同じ字では遅れが生じなかった)
疲れているときや、字を書き続けているときに起きやすいかどうかは、この記事で参照した資料では示されていません。
元に戻るまでの時間
実験で測定されたのは注視後の認知の遅れで、変化が続く時間は示されていません。
よくある誤解
ゲシュタルト崩壊は、目の疲れとは異なる現象と説明されている
「文字が急に変に見えた」と感じると、視力の問題を疑う方もいます。日本心理学会の解説は、この現象を、目の疲れなどの末梢的な視覚処理の疲労とは異なり、注視した字や同じ構造の字にだけ選択的に起こるものと説明しています。視野全体がかすむ症状とは別です。
まとめ
ゲシュタルト崩壊は、同じ漢字を長く見つめたときに、全体としてのまとまりの認知が弱まる現象と説明されています。日本心理学会の解説は、目の疲れとは異なる、パターン認知の高次の過程の機能低下によるものではないかと説明しています。
よくある質問
Q. 漢字より平仮名や英字でも起きますか? A. 紹介した研究は漢字を対象にしたものです。平仮名や英字については、この記事の資料では示されていません。
Q. 子どもにも起きますか? A. 子どもについては、この記事の資料に記載がありません。
参考資料・出典
- 二瀬由理・行場次朗「持続的注視による漢字認知の遅延 ―ゲシュタルト崩壊現象の分析―」心理学研究, 67(3), 227–231(1996年):25秒の注視後に、同じ形の漢字の認知が遅れた実験。要旨で確認(本文は未確認)。DOI: 10.4992/jjpsy.67.227
- 日本心理学会「ゲシュタルト崩壊」(二瀬由理、心理学ワールド第46号、2009年):用語の由来、高次のパターン認知過程の低下という説明、目の疲れとの違い。
